2004年10月21日

わしの眼は十年先が見える―大原孫三郎の生涯

わしの眼は十年先が見える―大原孫三郎の生涯 先日、新潟市の万代島美術館でやっていた「大原美術館展」に行ってきました。
大原美術館は、倉敷にある日本でも有数の近代美術館です。
やっぱり実物は迫力あるなぁと感心しました。
近代美術から現代美術までの傑作を展示してありました。

個人的には、ムンクの「マドンナ」と白髪一雄の「赤壁」が特に良かったです。

「マドンナ」は、女性の持つ闇の部分を特有のタッチで見事に描いています。
子供が見たら、夜トイレに行けませんな。

「赤壁」は、中国の三国時代にあった有名な戦闘をモチーフにしています。
大きなキャンバスに油絵の具を盛り上げて描いています。なんでも足で描いたとか。
力強い太い線は龍のようです。
大きな黒龍は曹操軍、中央を貫く赤龍は孫権軍、左上から暴れている黄龍は劉備軍でしょうか。
しばし見入ってしまいました。

ミュージアムショップで大原美術館を創設した、大原孫三郎の伝記を売っていました。
前から読んでみたいと思っていたので、購入して読了しました。おもしろかったです。

父孝四郎のはじめた倉敷紡績を引き継いだのは、孫三郎二十七歳、明治三十九年(1906年)のことである。
地方の一紡績会社にすぎなかったものを、そのあと孫三郎は日本で指折りの大会社に成長させる。
さらに、倉敷絹織(いまのクラレ)を設立。国産技術を使って、こちらも大会社への道を歩ませる。
他にも、中国銀行の初代頭取となり、中国電力の創設にかかわるなど、事業家としてダイナミックな足跡を残すことになる。

成功した実業家であると同時に、社会にも深く関わり、孤児院に莫大な援助をし、女工の生活環境改善に留意し、倉敷に近代的な総合病院を建設します。
『社会から得た財はすべて社会に返す』との信念だそうです。すごいなぁ。
貧乏をどう防ぐか。それを自由に研究するには、政府よりも民間の研究所がよい。そのための金は惜しまぬとして、大原社会問題研究所(現在の法政大学大原社会問題研究所)を設立します。
金は出すが口は出さず、研究者の好きにしてもらうという、まことにありがたいスポンサーであったようです。

『孫三郎は、理想を抱いて勉強する男が好きであった。そして、一度その男を信じたら、どこまでも面倒を見る。どこまでも尽くす-それが、孫三郎の流儀であった。』

弱者には優しく、社内に食堂や売店、診療所を作るなど社員を大切にしました。
工場の寮がアイロンの不始末で焼失した時、「怪我人はなかったか。」と訊いただけです。
しかし慈善家としての顔だけではなく、冷徹な経営者としての顔も持っていました。
消失した寮を新築しようとの稟議が上がってきた時、残った三棟でやっていくよう指示し、「人もへらさにゃいかんと思っていた。ええチャンスだ。」と言ってます。

昭和七年、満州事変調査のため来日したリットン調査団の一部団員が大原美術館を訪れ、そこにエル・グレコをはじめとする名画の数々が並んでいるのに仰天する。
このことから、日本の地方都市クラシキの名が知られるようになり、太平洋戦争下も、世界的な美術品を焼いてはならぬと、倉敷は爆撃目標から外された、と言われる。
大原孫三郎は、世界的に有名な絵画を収集した美術館を作ることによって、倉敷の町を守ったのです。

金を儲けることにおいては大原孫三郎よりも偉大な財界人はたくさんいました。しかし金を散ずることにおいて高く自己の目標をかかげてそれに成功した人物として、日本の財界人でこのくらい成功した人はなかったといっていいでしょう。
投稿者 isi : 2004年10月21日 23:56 | トラックバック
コメント

はじめまして、私もこの本を読みました。今から15年程前になりますが・・。彼の生き方に感動共感を覚えました。実は、彼の創設した倉紡(現在、クラレ)の岡山工場で働いていたのです。就職していた頃は、創設者である孫三郎の生き方などというものは一切知らず、勝手なことばかりやっていました。しかし、この本を読んだ後は、相当ショックでした。私、現在、53歳、これまで色々とありましたが、今になって確信できることは、21世紀の民間企業・組織は大原孫三郎のその生き方の中から多くを学び、理念を掲げて活動するべきであるということです。今日、日本国内における、組織モラルの低下により発生している多くの問題は、戦後の各界リーダーの生き方、人間性に問題があったからです。戦後、彼らは経済の発展には世界情勢とあいまって、成功させてきましたが、その時、大事なものを忘れてしまったのです。大原孫三郎は経済人としてだけではなく、人間性としても偉い人物でした。

Posted by: 長田憲二 : 2004年12月19日 15:57

はじめまして。
コメントいただき、ありがとうございます。
読後に大原孫三郎さんの生涯は、見事な生涯であったと思いました。
いつか倉敷に行って、遺されたものに触れてみたいものです。
現在の日本のリーダー層にまったく欠けているとまでは言いませんが、
足りないものは、品格と社会責任と自信でしょうか。

Posted by: isi : 2004年12月20日 04:31

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